『蒲田発路上シンガー』  〜旅流 草一郎ブログ〜

蒲田駅前で歌い続ける路上シンガーの徒然日記

September 2018


 ?前回からの続き?

 とは言えだー。本番前夜に台詞が光っただの、役と自分がダブって見えただの、こういう時が一番危ないのだ。バカがいよいよ本領を発揮する瞬間だからだ。愚かだった昨日までの自分、それに気付くことの出来た自分、もうこれからは皆んなに迷惑をかけるようなことなどないのだーっ!と叫びながら力一杯あさっての方へとジャンプすること請け合いだからだ。俺はそんなにバカなのか?俺はそんなに役立たずなのか?

 本番が始まり、座長を始めキャストの皆さんに意見を聞いて回りながらプランを実験し、中日を過ぎる頃にようやく自分なりのイメージした最後の台詞にまで持っていけるようになった。まだまだもたついているのは話にならないレベルであろうし、何ができるわけではないが、全身全霊の渾身の一言を言えたつもりだ。

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左から『松元信太朗さん(吉良上野介の飼い猫の化け猫 役)』、『観月ゆうじさん(天草四郎時貞の飼い猫の化け猫 役)』、『旅流 草一郎(無用ノ介 役)』/早着替えで楽屋になだれ込んだ時の一コマ。キスマークのある無用の介はこのタイミングでしか撮れなかった





 気が付けば満員御礼の全日程を終え、満月を見上げながら蒲田駅東口で唄っていた。すると、その夜芝居にお誘いしたがご都合の合わなかった方がわざわざ逢いに来て下さった。深夜1時過ぎに店仕舞いをしながら初めてこの方の仕事の話を聞かせて頂いた。なんでも、空港のセキュリティの顔認証システムのアルゴリズムだかゴルゴンゾーラだかの開発をされていて今度羽田で採用されたという。「そんな軍事機密をこんな雑踏で話してたら消されますよ」無用な男の無用なおちゃらけにも嬉しそうに笑みを浮かべながら、こういう世の中から無用とされていない方は決まって僕のような者を僕のような暮らしぶりをかっこいいとか憧れるとか言って下さる。今度呑みましょうときちんとした約束をされてからスーツの紳士は仕事に戻られて行った(時差のある地域にビジネスパートナーがいるんだとか)。

「あーいたいた!ワハハどーだった?」そこへ障害者手帳を持つかずおみがやってきた。「兄貴がいない間に風俗嬢に金使った?」
「また惚れたのか」
「惚れた?。ラーメン食い行こ。ただ券あるから」
「お前の券、偽造だろ!」

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稽古場での最初のメイクテスト。最初の傷はこんなに盛り上がってたんですね。特殊メイクは娯楽座の村本さん!

 何年か前、何のために唄っているのか分からなくなった時があった。今はそんなことも忘れて唄っているのかもしれない。ただ、この先ずっと唄っていていつか「役に立てて、嬉しい」と言える日が来るのなら唄っていたいと思う。きっとそんな日が来ると信じている。そんなことに気付かせてくれた娯楽座の芝居だった。

 『化け猫ロッキーホラーショー』にお越しいただいたお客様に改めて心よりのお礼を申し上げます。また、関わった全ての関係者とスタッフの皆様に改めて心から感謝を致します。最後に娯楽座の皆さんに最大級のお礼を。皆さん本当に有難うございました!

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千穐楽。スタッフ、キャスト全員で


<航海日誌>
 舞台が終わった数日後にポカスカジャンのタマ伸也さんが一献設けて下さった。その席で演出家・喰始の脳内のことについて少し話してくれた。「そもそも無用の介という名前なのだから最後の最後に役に立って良かったねというのが落ち。なんならそれしかない。そして、喰さんは何も言わないけどその人の本質を見抜いていて、似たような役を与えたりする事がある。」というのだ。まーそーならそーで構わないんですけど、俺がこのブログで3話にもの長きに渡りドラマチックに書き上げた後日談を、ものの数秒で要約しないで欲しいんですがと思った。なるほど、俺の話は長いんだなという事でよろしいでしょうか?こうなったらもう長話キャラでまいりましょう!最後まで皆さんお付き合い有難うございました m(_ \\\)m


(この下にあとがきがあります) 続きを読む


 ?前回からの続き?
 『化け猫ロッキーホラーショー』に登場するのは化け猫と人間(あ、狸もいたか)。自分は人間で賞金稼ぎの無用ノ介という役を頂いた。原作はさいとう・たかをの時代劇画で伊吹吾郎さん主演でTVドラマ化もされている。賞金稼ぎと遊女の間に産まれた無用の子供。それが原作の無用ノ介である。
 『化け猫?』のストーリーでは化け猫屋敷とそこに訪れた人間たちの人生に何らかの因縁があるのだが無用ノ介には因果関係は無くただただ迷い込んだだけという設定だった(弥次喜多も無縁)。

 賞金稼ぎというイメージは想像するに容易く、自分も役作りの上で当初は頭の中にあった出来合いのイメージを当然のごとく当てはめてしまっていた。しかし、『化け猫?』の無用ノ介は実際には人を切ったことはおろか、刀を抜いたこともない人生だったのかもしれないという疑念に思い当たった。本番前夜のことだった。どこにもその辺の詳細に付いては描かれていないのだ。台本というものの読み方をここでも学んだ。どう力を入れていいのか分からずにただ読んでいただけの一言の台詞が突如として鈍く輝いて見えてきた。本番前夜のことだった。本当にバカだと思う。


 芝居というやつは恥ずかしい。というか芝居に限らず歌であれ、絵画であれ、踊りであれ、ブログであれ、人様の前で何かを見せるという行為はおしなべて赤面するほど恥ずかしい筈だ。見る人が見ればその人の本質が手に取るように見えてしまう。その人が愛に溢れているか、若くは何かを隠そうとしているかなど。

 
 凄腕の賞金稼ぎだが怖がりというズッコケの一面も持っているというありがちなキャラクターだと勝手に思い込み稽古に役作りに励んでいた。台本のどこにも凄腕とは書かれていないのにだ。ここには潜在的に凄腕でありたいと願う自分のエゴが確実に介在している。とても恥ずかしい。そのくせ剣の達人を演じたがりながらもズッコケて見せて周りから愛されたいとも思っている。我ながら気持ちが悪い。意識か無意識かはさておき、自分の都合のいいように解釈しながら、人の世の言う処の見たいものしか見ようとせぬまま、稽古場での全日程は最終日を迎えたのだった。しかし、本番前夜に台本を読み返していて目に止まった台詞があった。

「役に立てて、嬉しい」

 たまたま居合わせただけで猫たちを結果的に救い、観月さん演じる化け猫のリーダーのお礼の言葉に応える場面だ。この男は本当は自分が役立たずということを薄々知っていたのかもしれない。無用ノ介が自分とだぶって見えた瞬間だった。(う?ん、笑いがない)  つづく

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『化け猫ロッキーホラーショー/千秋楽』正面


<航海日誌>
 我が小倅の名を舟ノ介という。稽古当初、自身を無用ノ介と名乗るシーンでは常に舟ノ介と言いそうになっていて、矯正にかなりの時間を実は費やしていた。


?旅流出演情報?
 9月30日(日)
下丸子フェスティバル2018








 大江戸ワハハ本舗娯楽座本公演『化け猫ロッキーホラーショー』が先週末の中野劇場HOPEにて大盛況の中その幕を閉じた。自分としては二度目となる芝居への挑戦となった。一度目もやはりHOPEで上演された娯楽座さんの『忠SING'蔵』だった。忠SING'蔵は昨年の11月の舞台だったが、実はこの時の打ち上げですでに『化け猫?』の草案を喰さんが語っていて、観月ゆうじさん(天草四郎の飼い猫の化け猫役)や松元信太朗さん(吉良上野介の飼い猫の化け猫役)がその会話の際に旅流さんもと名前を出して下さったのがことの始まりだったように思う(本当に涙が出るほど暖かい方々です)。しかし、その時の自分はと言えば稽古本番とも大失態の連続で周りに迷惑を掛け通しだったこともあり次の話には消極的だったし、歌手というこだわりの元に芝居は『忠SING蔵』が最初で最後との心づもりで応募したのがそもそもだった。だから、あの打ち上げは自分にとっては芝居自体への打ち上げという臭気も帯びていたし、次の芝居の話には煮え切らぬ返答に終始していたと思う。

 古い話ばかりで恐縮ですが?
 『忠SING'蔵』の通し稽古が始まる頃までにはポカスカジャンのタマ伸也さんがよく呑みに誘ってくれるようになっていて、そんな酒席では旅流は話が長くてつまらないという悪評が周知の一途をたどり、大きな鎌首をもたげて都会の闇をより一層暗くし始めるようになっていた。通し稽古が始まれば今度は台詞の間が長いと言われるようになり、割とバカかも?と自分のダメっぷりにようやく気付き、誰もいなくなった明け方の稽古場で鏡に映る自分を拳銃で撃つ真似をしてみたりした。  つづく


<航海日誌>
 昨夜は中秋の名月に誘われて蒲田へと唄いに出てみた。鬼ごろしの紙パックをやりながらのんびり準備をしていると、隣に晒しの鯉口がよく似合うおじさんが座っていらした。蒲田にはもう40年住んでるという。自分はそれでももう10年近く歌ってますでしょうか?ご縁がないとお逢いできないもんですねぇ、などと話を合わせながら。当時交流がおありだったというかまやつひろしさんを何曲か唄って差し上げました。月夜に唄うってのは本当にいいもんなんです。

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『化け猫ロッキーホラーショー』千秋楽


?旅流出演情報?
 9月30日(日)
下丸子フェスティバル2018






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