『蒲田発路上シンガー』  〜旅流 草一郎ブログ〜

蒲田駅前で歌い続ける路上シンガーの徒然日記

April 2012

あたたかい夢が聴こえる。
懐かしい思い出が甦ってくるようだ。
雲の切れ間では散髪屋が居眠りをし、その髭の下ではツバメが営巣に励んでいる。
春告げ鳥は下界まで舞い降りて来て、聖なる泥を見つけてはくわえ運んでゆくのだが、今のこの町にはそれが幾らでもあるのだろう。
見渡す限りの幸せが親子たちを包み、永遠がジョギング姿で当然のように通りを横切ってゆく。ヒョウ柄の踏切の音色はカーニバル。でも、町の人はシャイだから誰も踊り出さずにいる。だから、私が口火を切るのだ。
「ひゃっほー!さあ皆さん、おどりましょう!」
昨夜の哀しみは大地を踏み固め、絆となってもう芽吹いている。
だいじょうぶさ、その調子。

出来合の正しさを着飾っては街が勝ち誇っている。
仕組まれた風が容赦なく吹き付けては明日への進路を塞いでいるというのにだ。
塔は高くそびえ立ち、地球上に残った「美」は即ち人の手に触れられていない此処だけなのだと、昇ってくる者達を待ち構えている。
人々は見た目の美しさとのみ契約を交わしたがり、破綻してもなお身の丈には気付かない。賢者までもが傍観し英雄が立ち上がらないと酒場でくだを巻く始末。なんと平和な成れの果てであろう。ビバ人生!


シングルバレルを飲み干して私の夜間飛行は終わる。

?航海日誌?
約束など要らない。無くとも明日はくる。俺に嘘をついてもいい。自分に嘘はつくな。

明日は晴れるという。
今は雨が振っているというのにだ。
信じられるか?
OK、分かった。お前は信じると言うんだな。
なら、お前を信じよう。明日は晴れる。

こうして私の友情はすべて破綻した。
笑えるだろ?
違うって。そうじゃない。
お前に訊いてるのは、何で私は独りで生きていられるのかってこと。
前世が漁師だったって?
…あながち否めんな。。
だったとして、何を獲っていたと?
それは関係ない?なんで?
いつも坊主だったから?
…なるほど。それこそ否めんな。


俺らが漁師になったなら/旅流

俺らが漁師になったなら 探知機なんぞは使わずに
カンを頼りに船漕いで でっかい夢を釣るだろう
竿も仕掛けも手作りさ つれない日には素潜りさ
それでも駄目なら帰るのさ 腹をすかせて寝るだけさ
時化が来たなら陸にあがって 震える子猫を胸に抱き
朝が来るまで撫でてやるのさ 昔話でも聞かせてさ

おいらが漁師になったなら 夜明け前には海へ出て
カモメを舳先に留まらせて 気ままに舵を取るだろう
隣の船は大漁旗 横切る船も大漁旗
今日も坊主の俺だけど 明日はでっかい夢を釣る
潮が変われば 流れも変わる たまにゃいい日もあるだろう
風が吹くまで 待つだけさ カモメを酔わせてダンチョネさ

岬の向こうにゃ原子力 あれから魚は穫れなんだ
気付けば漁師は俺独り 子猫とカモメと俺独り
俺らが漁師をやめるなら 海のねえ町さ越すだろう
それでも夢に見るだろうか 夜明け前の船出の時を 
鼻歌、舟歌、子守唄 心は海のどまんなか 
大漁旗はためかせ おいらの船はよ 子猫とかもめと夢ん中

星も見つからない夜ー。
手放せない面影達が集まる酒場の光が見えてくるー。

笑い声が聴こえる。
哀しみという名のステージで、おどけているクラウンはきっともう一人の自分。
1ミクロンまで測れるメジャーで客席との温度差を測ろうとして失敗するネタを演じている。
客席は君だらけ。
君のうちの誰かがジュークボックスにコインを入れて『静寂』や『沈黙』をリクエストしている。
やがて、君の静かなる世界は完成し、排除された僕は星のない夜に佇むのだ。

そしてまた、酒場の光が見えてくるー。

雨/旅流

ひとこと 言わせてくれないか
この雨は 俺のためだけに降ってる
そう 思わないか?
また 面倒臭そうな顔で あしらうんじゃないよ
嫌な店だな
おあつらえ向けの 雨の夜じゃないか
今までの ツケも 全部 水に流してよ
俺みたいな 客は 大事にしなよ
今日で終りだと思ってさ

そうだろ、そう思うだろ
こんな筈じゃなかったのにさ
そうだろ、そうじゃないだろ
やっぱり雨降りは嫌だな

そろそろ行くから 傘を貸しなよ
気ぃ遣わせたら悪かったな


ひとこと 訊かせてもらえるかい?
この店は 何で傘の一本も置いてねえんだよ

傘が無い訳じゃないのさ 金がないのさ ツケを払えよ
そもそも、傘に隠れたがるのは善人ばかりさ
この雨はお前のため降ってたんじゃなかったのかい?
清らかな雨に打たれて生きてりゃ
涙も目立たないはずさ


そうだろ、そう思うだろ
人のせいにはしたくねえよな
そうだろ、そうじゃないだろ
やっぱり、雨降りは嫌だな

雨が止んだら とっとと行きなよ
最後の客になる前に

最後の客になる前に

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